支援事業

ジュバには戻りたくないステラ、15歳との出会い

 ステラは継母と暮らしています。学費などは出してもらえず、成績がよかったのに勉強もままならない状況です。
 父親はステラを残して南スーダンに帰りました。ワークショップに参加した今年の4月頃は生活も荒れ、感情も乱れて大変だったと言います。でもこの心理社会的支援に参加する日々の中で彼女なりに自分のトラウマを吐き出し、カタチにすることでゆっくりと落ち着いてきていると言います。

 そんなステラたちが今日、取り組んだのがジオラマワークショップの最終日でした。テーマは「理想の街作り」です。
 
 あるグループが作ったのが南スーダンの首都「ジュバ」でした。
それはそれは見事な街作りで、微に入り細に入りとてもよくできたジュバでした。
 そして質問の時間が来ました。

20230908-3.jpeg

 ステラがジオラマを見つめながら聞きました。
 「あなたたちは、今回作ったこのジュバに戻りたいと思っているの?」
 グループのみんなは少し戸惑ったように、
 「そうだよ。もちろん」
 と答えます。
 すると、ステラは怒ったように、
 「私は、絶対ジュバには戻りたくない。みんなだって本当はそうでしょ」
 みんな黙ってしまいました。でも作ったグループの一人が、
 「私たちはジュバがよくなって、こんなジュバだったら住みたいって気持ちで作ったんだよ」
 ステラは少しためらって、
 「うん…。そっか、そういう意味なんだね…」
 そう言って座りました。

 

20230908-2.jpeg

 ジュバにいい思い出なんてひとつもないステラ。彼女のグループが作った理想の街は「ロンドン」で、リーダー格のステラは胸を張って言いました。
 「ロンドンって喜びと幸せにあふれていていい街なんだよ。そして何より平和だもん」
 行ったことはないけれど、平和な街に暮らしたいという願いで、ステラたちはロンドンを制作したのです。
 でも同じ難民の仲間がこともあろうにトラウマの源である「ジュバ」を作って、彼女は焦りました。考えてもみなかったことなのです。でも、作ったグループみんなの考えを聞いて、
 「そういう考えもあるのか…」
 と思いました。そして、その自分とは違う考えと方向性を目の前で、ステラは受け入れていきました。

 ワークショップの後半が個人制作ではなくグループ制作なのは、ここに理由があります。 
 自分のトラウマだけではなく、他者のトラウマを聞き、他者の向き合い方を受け入れ、自分のトラウマの物語をもっともっと語りやすいものに変えていく。ステラの心の動きが今日はとてもよくわかりました。
 勉強もよくできて利発なステラ。サッカーをやらせたらピカイチの選手なのに、戦争に振り回され、今は苦労の中に生きています。それでも、忌まわしい思い出しかないジュバを、今日は少し受け入れたのです。それは決して誰かに強制されるべきものではなく、こうして集団の相互作用の中で無理なく、自分らしく受け入れていけばいいのです。

20230908-1.jpeg

 こんなワークショップを実践できるうちのウガンダ人のファシリテータ5人、デイビッド、リチャード、ジュリアス、サルマ、そして筆頭のハリエット。すごい人材が集まっています。

 桑山 紀彦

関連する活動レポートを見る

  • 福島県ユニセフ協会 公演事業

    福島県ユニセフ協会

  • 猪苗代中学校 公演事業

    猪苗代中学校

  • 大津市役所の取り組み 公演事業

    大津市役所の取り組み

  • 帰国しました。 支援事業
    • ウガンダ
    • 南スーダン
    • 心のケア
    • 難民支援

    帰国しました。

  • ハリエットという存在 支援事業
    • 南スーダン
    • ウガンダ
    • 心のケア
    • 難民支援

    ハリエットという存在

  • 2日でここまでやれる? 支援事業
    • 南スーダン
    • ウガンダ
    • 心のケア
    • 難民支援

    2日でここまでやれる?

  • 向き合うための5mm 支援事業
    • 南スーダン
    • ウガンダ
    • 心のケア
    • 難民支援

    向き合うための5mm

  • 映画を創れる人材に 支援事業
    • 南スーダン
    • ウガンダ
    • 心のケア
    • 難民支援

    映画を創れる人材に

  • ジュバには戻りたくないステラ、15歳との出会い 支援事業
    • 南スーダン
    • ウガンダ
    • 心のケア
    • 難民支援

    ジュバには戻りたくないステラ、15歳との出会い

  • ウガンダ初日 支援事業
    • 南スーダン
    • ウガンダ
    • 難民支援
    • 心のケア

    ウガンダ初日

  • ウガンダに着きました 支援事業
    • ウガンダ
    • 南スーダン
    • 心のケア
    • 難民支援

    ウガンダに着きました

  • ウガンダに出かけます 支援事業
    • ウガンダ
    • 南スーダン
    • 心のケア
    • 難民支援

    ウガンダに出かけます

  • 母子保健啓発キャンペーンが始まりました 支援事業
    • 東ティモール
    • 母子保健

    母子保健啓発キャンペーンが始まりました

  • 10年目の出雲実行委員会 公演事業

    10年目の出雲実行委員会

  • 島根県立吉賀高等学校 公演事業

    島根県立吉賀高等学校

  • コープこうべとのつながり 公演事業

    コープこうべとのつながり

  • 万感の千光寺公演 公演事業

    万感の千光寺公演

  • 大菩薩嶺登頂と、千葉公演 公演事業

    大菩薩嶺登頂と、千葉公演

  • お盆の帰省 公演事業

    お盆の帰省

  • 13年ぶりの鳥取公演 公演事業

    13年ぶりの鳥取公演

  • 東ティモール通信事情 支援事業
    • 東ティモール
    • 母子保健
    • 医療支援

    東ティモール通信事情

  • 心理社会的支援ファシリテーター研修 支援事業
    • ウガンダ
    • 南スーダン
    • 心のケア
    • 難民支援

    心理社会的支援ファシリテーター研修

  • 東ティモールの発展 支援事業

    東ティモールの発展

  • Frontline撮影隊 支援事業
    • 東ティモール
    • 医療支援
    • 母子保健

    Frontline撮影隊

  • NHKで放映されました 支援事業
    • パレスチナ
    • 心のケア

    NHKで放映されました

  • 東ティモール到着 支援事業
    • 東ティモール
    • 医療支援
    • 母子保健

    東ティモール到着

  • 東ティモールに行ってきます。 支援事業
    • 東ティモール
    • 医療支援
    • 母子保健

    東ティモールに行ってきます。

  • 描画ワークショップ「失ったら嫌なもの、嫌なこと」 支援事業
    • ウガンダ
    • 南スーダン
    • 心のケア
    • 難民支援

    描画ワークショップ「失ったら嫌なもの、嫌なこと」

  • 5年ぶりの奈良県三郷町公演 公演事業

    5年ぶりの奈良県三郷町公演

  • 映画「生きる」と向き合う意味 支援事業

    映画「生きる」と向き合う意味

  • 帰国して、思うこと 支援事業

    帰国して、思うこと

  • やる気にあふれるウクライナ人ファシリテーター 支援事業
    • ウクライナ
    • ルーマニア
    • 心のケア
    • 災害復興支援

    やる気にあふれるウクライナ人ファシリテーター

  • 難民センター診察と子どもたちのワークショップ 支援事業
    • ウクライナ
    • ルーマニア
    • 心のケア
    • 医療支援
    • 難民支援

    難民センター診察と子どもたちのワークショップ

  • 美しい自然と戦争 支援事業
    • ウクライナ
    • ルーマニア
    • 心のケア
    • 医療支援
    • 難民支援

    美しい自然と戦争

  • 難民シェルター 支援事業
    • ウクライナ
    • ルーマニア
    • 心のケア
    • 医療支援
    • 難民支援

    難民シェルター

  • 向き合う気持ち、避ける気持ち 支援事業
    • ウクライナ
    • ルーマニア
    • 心のケア
    • 難民支援
    • 医療支援

    向き合う気持ち、避ける気持ち

  • 愛と悲しみの写真言語法 支援事業
    • ウクライナ
    • ルーマニア
    • 心のケア
    • 難民支援
    • 緊急支援

    愛と悲しみの写真言語法

  • ウクライナ支援活動の始まり 支援事業
    • ウクライナ
    • ルーマニア
    • 心のケア
    • 医療支援
    • 難民支援

    ウクライナ支援活動の始まり

  • 5年目の京都市立日吉ケ丘高等学校 公演事業

    5年目の京都市立日吉ケ丘高等学校

  • エコー研修後フォローアップ(東ティモール事業) 支援事業
    • 東ティモール
    • 母子保健
    • 医療支援

    エコー研修後フォローアップ(東ティモール事業)

  • 2年次事業評価会議(東ティモール事業) 支援事業
    • 東ティモール
    • 母子保健

    2年次事業評価会議(東ティモール事業)

人と関わり、人を支える
支援活動の実施にご協力ください。

みなさまからの寄付や物資支援、協働といった応援によって、
現地の人の未来を長期にわたってより良くする海外支援を
より多くの人に届けることができます。