ステラは継母と暮らしています。学費などは出してもらえず、成績がよかったのに勉強もままならない状況です。
父親はステラを残して南スーダンに帰りました。ワークショップに参加した今年の4月頃は生活も荒れ、感情も乱れて大変だったと言います。でもこの心理社会的支援に参加する日々の中で彼女なりに自分のトラウマを吐き出し、カタチにすることでゆっくりと落ち着いてきていると言います。
そんなステラたちが今日、取り組んだのがジオラマワークショップの最終日でした。テーマは「理想の街作り」です。
あるグループが作ったのが南スーダンの首都「ジュバ」でした。それはそれは見事な街作りで、微に入り細に入りとてもよくできたジュバでした。
そして質問の時間が来ました。
ステラがジオラマを見つめながら聞きました。
「あなたたちは、今回作ったこのジュバに戻りたいと思っているの?」
グループのみんなは少し戸惑ったように、
「そうだよ。もちろん」
と答えます。
すると、ステラは怒ったように、
「私は、絶対ジュバには戻りたくない。みんなだって本当はそうでしょ」
みんな黙ってしまいました。でも作ったグループの一人が、
「私たちはジュバがよくなって、こんなジュバだったら住みたいって気持ちで作ったんだよ」
ステラは少しためらって、
「うん…。そっか、そういう意味なんだね…」
そう言って座りました。
ジュバにいい思い出なんてひとつもないステラ。彼女のグループが作った理想の街は「ロンドン」で、リーダー格のステラは胸を張って言いました。
「ロンドンって喜びと幸せにあふれていていい街なんだよ。そして何より平和だもん」
行ったことはないけれど、平和な街に暮らしたいという願いで、ステラたちはロンドンを制作したのです。
でも同じ難民の仲間がこともあろうにトラウマの源である「ジュバ」を作って、彼女は焦りました。考えてもみなかったことなのです。でも、作ったグループみんなの考えを聞いて、
「そういう考えもあるのか…」
と思いました。そして、その自分とは違う考えと方向性を目の前で、ステラは受け入れていきました。
ワークショップの後半が個人制作ではなくグループ制作なのは、ここに理由があります。
自分のトラウマだけではなく、他者のトラウマを聞き、他者の向き合い方を受け入れ、自分のトラウマの物語をもっともっと語りやすいものに変えていく。ステラの心の動きが今日はとてもよくわかりました。
勉強もよくできて利発なステラ。サッカーをやらせたらピカイチの選手なのに、戦争に振り回され、今は苦労の中に生きています。それでも、忌まわしい思い出しかないジュバを、今日は少し受け入れたのです。それは決して誰かに強制されるべきものではなく、こうして集団の相互作用の中で無理なく、自分らしく受け入れていけばいいのです。
こんなワークショップを実践できるうちのウガンダ人のファシリテータ5人、デイビッド、リチャード、ジュリアス、サルマ、そして筆頭のハリエット。すごい人材が集まっています。
桑山 紀彦
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