今日は陸前高田市の高田東中学校での公演でした。
久しぶりの陸前高田市。復興は進む一方で空いている土地もあり、なかなか元の通りとはいかないところもあります。しかし、海沿いの道にある市営住宅は津波を正面から受けた当時のまま残されていました。陸前高田市の「向き合う勇気」を感じました。
そしてこの高田東中学校は広田半島の全ての子どもたちを集め、新制中学校として誕生していました。
13年前の津波の時、地元名取市の支援と共に実はこの陸前高田に入って救援活動を行っていました。
あの日、往診依頼が来て、僕はある集落の民家に入りました。その二階には泣き叫ぶ若い女性がいました。夫を津波で亡くし、おなかにはもうじき臨月の赤ちゃんがいる女性でした。泣きはらしておられ脱水を診て取ったので点滴を試みましたが、痩せ細っていて血管は見えませんでした。悲しみの慟哭は続くので、落ち着いていただこうと思い、
「気持ちが落ち着く注射をしますか?」
と聞くと、はっと我に返ったその女性は、
「いえ、おなかに赤ちゃんがいるので、注射は大丈夫です。」
と、はっきりとおっしゃいました。夫を失った悲しみはあるけれど、おなかの中のお子さんを守ろうとする気持ちが強く感じられ、この人は大丈夫と判断し、女性のお母さんに、
「鋭利な刃物や開いたままの窓などに注意して、命を守ってあげてください」
とお伝えして往診を終えました。
目の前に展開する、強く深い悲しみのトラウマに呆然としたことを今でも覚えています。
それから13年目の今年、久しぶりにご自宅を訪ねたら女性のお母さんが(おばあちゃん)が出てこられ、
「あの時はお世話になりまして・・・」
と同時に、
「あの時のおなかの子は2011年6月に生まれてすくすく育ち、いま、東中学校の1年生なんです」
雷に打たれたような思いとはこのことでしょうか。あの往診したお母さんのお子さんがいる中学校で、13年目に偶然にも呼ばれたのです。
歌いながら、語りながら、
「この中に、あの時おなかの中にいた子どもがいる」
と思うと、人の生きる力の強さと縁と絆の強さを感じ、いつも以上に涙目でした。しかもウクライナ篇の後半、トラウマに向き合う子どもたちの場面になったときに現れた、透明感の強い静まりは明らかに自分のおじいちゃんやおばあちゃんお父さんや姉弟を津波で失った経験のある子どもたちの集団だからこそ、かもし出されたものだと思います。
公演後、副校長先生の計らいでついにその女性が学校に来てくださいました。
多くの哀しみと共に生きてきた人の深みを感じる13年ぶりの再会でした。
錯乱にも近い状態だったので僕のことは覚えていないと思ったいたのに、よく覚えてくださっていました。
そして立派に成長した娘さん。
「あなたのお母さんが、大切な人を失い失意のどん底にいたとき、僕は医師として呼ばれました。その時あなたはおなかの中にいて、お母さんはあなたを守るために心を落ち着けるお注射はいらないと言ったんです。今日13年ぶりに再会できました」
娘さんは涙を流しながら、僕の自己紹介を聴いていてくれました。
どれほどの哀しみだっただろうかと、いくら想像してもしきれない衝撃の強い出来事だったので、その後もずっと気になっていましたが、こうして再会できて本当にうれしかったです。
今日、アフガニスタン篇で突然動画が停止しました。滅多にない映像のトラブルです。でも僕は思っていました。「お父さんが降りてきたのだ」と。これまでも閖上でいくつもの不思議な出来事がありました。CDが止まる、映像が止まる…。
それはみんな天に昇っていった人が降りてきたときに起きる現象だと信じてきました。だから、確かにトラブルとしては残念だったけれど、お父さんが降りてきた証しなのだと思えて、とても幸せでした。
そう目の前のお母さんと娘さんに伝えると、
「サインはいくつもありました。天に昇っていった時に感じた暖かい感触。その後よく現れるクモ…。いつもお父さん来てるねって娘と話しているんです。」
こうして今日は空にいるお父さんも巻き込んで、大きなつながりの縁につながれた1日でした。
娘さんに、将来のことを聞いたら、
「まだ迷っているけれど、人を支えるような仕事に就きたい」
とのこと。
「じゃあ医師を目指して一緒に働こう!」
といったら小さくうなずいてくれました。
どうか、お父さん空から見守っていてください。
桑山 紀彦
(写真の掲載はお母様に許諾をいただきました。お名前はご意向で伏せさせていただいております。ご配慮ください)
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