支援事業

向き合う気持ち、避ける気持ち

 今日は11歳~13歳の年齢の子どもたちと写真言語法と描画法でした。
 ファシリテーターのオリガはウクライナ国内で臨床心理をしていたベテランです。でも日本の臨床心理士に見られがちな「自分が悩んでいることに向き合えていない」ような暗さはなく、とっても活発なソーシャルワーカーのような関わりをする人物でした。見ていて頼もしさがありました。
 ファシリテーションも見事で、どの国にも見られるような「途中で集中力が切れる子どもたち」をうまく巻き込みながら、合計2時間のセッションをやり遂げていました。

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 写真言語法で使う写真はGNJPの通訳者でもあるウクライナ人のアナスタシアが、いろいろと考えて選んだものでしたが、まさに「トラウマに直接触れるような」戦争に関する写真もあれば、「日常の中にほっとするような」写真もあり、自由に選べる写真群がそろっていました。
 子どもたちは向き合おうとしている子もいれば、わざとそれを避けようとする子もいます。でも決して無理強いしてはならないのが心理社会的支援なので、本当は向き合うべきとわかっていてもまだ心の準備ができていなければ、平凡な写真を選んでトラウマを避けながら語ることもできます。しかしその一方で、トラウマに向き合っている同世代の子どもの「語り」を聞くことで、何らかの変化が心の中に去来する可能性を秘めています。いつどこで向き合うかは、その子が決めればいいことなのです。

 いい雰囲気の中で進んだ写真言語法では、トラウマに向き合う数人の子どもたちに圧倒されました。
 13歳のミーロスラブフはバリケードで封鎖される街の写真とともに、自分が街を出た、その日のことを語ってくれました。
 11歳のイリナは夕陽の写真を選び、ウクライナにいたときはいつもこんなふうに暖かい光の中の想い出が多いことを語り、一方で電力不足などを考えると当面は戻れないであろうことを言葉にしていました。

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 同じく11歳のジーマルは、戦争が始まった日のことを語りました。暗い地下に逃げて息を潜めて耐えた日々のこと。地上に戻っても空襲警報が鳴るたびにまた地下に戻るという行ったり来たりの毎日に嫌気がさしたこと・・・。その時の気持ちはどうだった?とオリガが尋ねても、ジーマルはしばらく考えて、
 「わかんない」
 と答えました。
 横にいたイリナが一生懸命「こんな気持ちだった?」「そんな気持ちだった?」と聞いても、ジーマルは最後まで、
 「わからないよ」
 という答えでした。
 ジーマルの中では記憶と感情の解離が起きているように感じられました。きっとその地上と地下を行ったり来たりしたことはジーマルの中で「ビデオ映像」のように記憶されています。でも、一方で感情がはがれ落ち、気持ちを思い出せないでいる可能性があります。語れない、語りたくないのではなく、本当に何も思い出せないのでしょう。これを放っておくとPTSD(心的外傷後ストレス障がい)になります。要注意です。

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 12歳のアトゥールは、ここまで逃げて来るまでの道にたくさんの破壊され焼け焦げたクルマが転がっていたその情景のことを語りましたが、その時の恐怖や不安をもまた言葉にしていました。ファシリテーターのオリガとユリアは子どもたちの感情を引き出すために「感情表現シート」を用意していて、それがとても役に立っていました。見事なアシストです。
 「悪夢を見ることがあるか」
 という僕からの質問に、
 「月に2回くらいはある」
 と答えるアトゥール。戦争はすでに子どもたちの心に大きな影を落としています。どう向き合うかが、まさに問われている状況が見えてきました。

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 仲いい子ども同士で座ると途中でおふざけが始まる可能性があること、まだ向き合う気持ちになれていないときはちょっと斜に構えて、関係ないことを語り始めたりする子どもがいることなどもオリガはよくわかっていました。
 GNJPはよくぞ短期間にここまで人を育て、しっかりしたワークショップを展開できています。この事業の担当、池田さん(もとロシナンテス)の「愛と想像力」がその原動力であると感心して1日の活動が終わりました。

 終わりに4人ほどウクライナから逃れてきた大人のみなさんの健康診断を行いましたが、意外なほどに健康体であることがうれしかったですね。

 桑山 紀彦

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