心のケアに必要な多層支援

2024.07.13 支援事業

心のケアに必要な多層支援

　提携団体候補として視察しているGood Samaritan（GS)の活動。
　今日は物資配給から始まりました。
　ウクライナのみなさんは「東部の占領された地域」と呼んでいますが、そこからこのオデーサに避難してきている人を対象に、NFI（非食料アイテム）とFI（食料アイテム）を配給しています。戦争が始まって2年5ヶ月目に入っていますが、国内避難民のみなさんの暮らしはとても厳しいので、みなさん救われる思いで物資を受け取っていました。

　それに加えて午後からは現金給付。
　今日はスイスのNGOがなんと現金（札束）を携え、GS内のカフェテリアで現金を手渡しました。
　口頭ではあっても避難してきた地域、破壊された現状、現在の収入源の有無などを確認して500フリブニャ（約2000円）を手渡します。でも被害がひどい場合には2000フリブニャ（8000円）を渡します。こういった現金給付は過去のNGOによる支援の中では効果が疑問視されていましたが、最近はJPF（Japan Platform）も含めてけっこう「あり」な支援の形式です。

　お昼に向かったのはオデーサの郊外。広大な塩田の拡がる黒海沿いのひなびた村でした。そこで心理社会的なリハビリセンターを運営しているのが、アレクサンダーさんとユージニアさんです。どこから見ても屈強な兵士に見えるアレクサンダーさんですが、借地の中には牛、豚、ニワトリ、犬を飼い、多くの作物を育て、その環境の中で身体的、精神的に傷を負った元兵士の社会復帰を支援しています。ちなみにユージニアさんは心理療法士です。

　「心の傷は、町中の精神科医に行ってもただ薬を渡されるだけ。それでは本当によくならない。生きものと触れ、作物を育て、みんなで会話し、自分が誰かに必要とされていることを感じて、ようやく人は復活していく。だからこの施設が必要なんだ」
　先駆的な活動です。苦労しているウクライナだからこそ、その模索の中で「本当に必要なもの」を見つけているのだと実感しました。

　夕方はGSのカフェ内で「兵士の家族のための時間」が持たれていました。
　それをファシリテートするエラさんは特に専門的な知識があるわけではないけれど、兵士を送り出した家族のために大切な時間を作り出していました。
　「兵士と言っても、みんな普通に仕事をしていた人たちなのよ。建築家、教師、ソーシャルワーカー。でも戦場に発たなければならなかった。戻ってきた自分の夫や息子が、その過酷な環境に置かれたことで性格が変わってしまい、家族はみんな悲しみに打ちひしがれる。
　ギリギリの状態に命がさらされる現場を何ヶ月も経験すると、人は生き延びるために自分自身を変えてしまう。それは自分が愛した夫でもなく、自分が育てた子どもでなくなってしまうことになるのね。
　そこに生じる兵士とその家族の心の断絶の“溝“を少しでも浅くするのが、私の勤め。でも何も特別なことをしているわけではなく、家族同士が集まって会話することで、みんな自分の中に答えを見つけていくのよ。この活動は戦争が終わっても続くと思うわ」

　「戦争」と一言で言うけれど、それは多くの「普通のウクライナ人」を追い詰めています。優しかった夫や息子が、野獣のようになって還ってきたり、お酒や薬に依存したり…。
　「心のケア」の仕事は多層的であるべきであり、多くの人の関わりによって構築されていることがよく分かりました。何よりウクライナ人は「よくしゃべる」ことがとてもすばらしいし、救いになっていると思います。

　桑山紀彦

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