パレスチナ事業 活動内容

心理社会的ケアとは

紛争地に暮らす人々は、日々、多くのストレスを抱えています。
終わることのない紛争の中、家を失ったり家族を亡くしたりする人が後を絶ちません。
辛いこと、苦しいことをそのまま言葉にして話すのは簡単なことではありません。
そんなとき、心の中にあるできごとや思いを、絵や粘土細工を通して表現し、目に見える形にして他者と共有することで、新たな意味を見出すことができます。また、友だちと一緒にひとつの作業をすることで、協調性や相手の気持ちを考えることも学んでいきます。
心のケアの活動は集団で行うワークショップが中心となります。気持ちをほぐすアイスブレイキングに始まり、みんなで考え、気持ちを吐き出し、受け止め共有しながら活動は進んでいきます。
 

心理社会的ケア(心のケア)ワークショップでの取り組み

 心のケアワークショップでは2次元表現である描画から始まり、3次元表現のクレイモデル(粘土細工)やジオラマ制作、4次元表現の音楽や映画・演劇の制作へと表現の幅を広げていきます。

 それぞれのワークショップで自分の体験を表現し、どんなできごとだたのか、そのときの気持ちはどうだったのかを語り、友だちと共有していきます。どんな体験でも、どんな想いでもみんなで耳を傾け、拍手で受け止めていきます。
 こうして表現する過程で意味づけをし、想いを共有し、子どもたちそれぞれの体験を意味のあるものへ、価値のあるものへと見直していきます。
 また、作品に残すことで、参加していない友だちや大人たちにも想いを届けることができます。子どもたちが想いをこめて作った作品は、見る人を勇気づけ、次への行動へと背中を押すことができるかもしれません。

「困難があるからこそ得られるものがある」
そう思えるよう、活動を続けています。

2次元表現:描画

 まずは、取り組みやすい2次元(平面)の表現から始めます。子どもたちが親しみを持って取り組める「絵を描く」ことを通して、表現することに慣れてもらいます。
 テーマは最初は「好きなもの・嫌いなもの」といったことからはじめ、「好きなこと・嫌いなこと」という”動的”なものへつなげていきます。その後は「なくしたもの」や「得たもの」などのテーマを提示したりと変化をつけていきます。
 そして最終的には心の傷に触れるような内容に取り組んでいきます。それは「あの日、見たもの」や「空爆」「破壊」といったテーマです。それは描くにあたって心痛いものかも知れません。しかし、かといって心の中に閉じ込めていいはずはありません。絵を描くという手法を使い、無理のない形でそれに向き合っていきます。

3次元表現:粘土細工

 立体表現に慣れていないパレスチナの子どもたちは、平らな粘土作品を作ってしまいがちです。このワークショップでは、子どもたちが奥行きのある表現方法ができるように促し、物事を多面的に見る力を身につけてもらいます。
 テーマとしては2次元表現で描いたものを立体化していきます。従って制作するものは「好きなもの・嫌いなもの」から「好きなこと、嫌いなこと」。そして「なくしたもの」や「得たもの」。最後には「あの日見たもの」や「空爆」「破壊」といったテーマです。
 色粘土も使い勝手がいいですが、粘土細工は白粘土が適しています。自由につくり、それに色を塗るという作業がとても表現力を引き出すにあたって有効と考えるからです。子どもたちは張り切って様々な作品を創り出していきます。

3次元表現:ジオラマ制作

 粘土を使い、記憶やストーリーを自由に、より現実に近い形で表現できるのがジオラマです。
 個人制作「忘れられない光景」では、辛い体験を勇気を持って吐き出し、心の整理を促します。
 集団制作「未来の街」は、紛争で失われた自分たちの街を、想像力と希望を持って再生していく活動です。制作を通して、未来への前向きな心を育みます。

4次元表現:音楽ワークショップ

 音楽ワークショップは、音楽という媒体を使った自己表現です。まず、スタッフが作ったオリジナルの曲に歌詞を載せていきます。自分たちの感じている大変なこと、辛いこと、どうしたらそれが解決できるか、どんな風に変わったらうれしいか、グループごとに言葉を紡いでいきます。
 さらに、「失われたものから価値を見出す」取り組みとして、廃材から楽器を作っていきます。叩くと鳴るという実に単純な打楽器、これを「ガレッキ」と呼んでいますが、みんなで合奏していきます。音階楽器は時として難しいので、なるべく誰でも取り組めるような打楽器で演奏を重ねていきます。
 最後に、みんなで作った歌と楽器で演奏をし、聴力障がいのこともたちの手話の振り付けなどを交えてビデオに収録します。たくさんの人に見てもらい、子どもたちが自信を得ることで、心の整理につなげます。

4次元表現:映画ワークショップ

 クラスで相談しあって「こんなお話があったらいいな」という短い物語を作り出し、撮影を行い、映画を完成させます。
 演劇と違ってシーンごとの撮影なので、セリフを覚えることや演ずることへの抵抗感を減らしながら、空間軸を使った演技表現を行っていきます。
 2015年7月には、初めてとなるガザ地区、ラファを舞台にした映画「ふしぎな石〜ガザの空」を制作しました。ファラッハというケアを受けていたくラスの少女が主人公となり、戦争で失ったお母さんへの想いを取り戻していきます。
 現在は多くの子どもたちが自分たちでカメラを回し、マイクを当てて映画の撮影に臨んでいます。今後たくさんの映画がガザから発信していけるといいと思っています。

4次元表現:演劇ワークショップ


  映画撮影を通して演技に親しんだ子どもたちは、いよいよ舞台で観客を目の前に臨場感のある演技表現を行うことを目指します。
 演じるということは、自分の体験を超えて、他人の気持ちに寄り添い、なりきることが必要になります。立場を変えながら演じることで、心は広がり、様々な体験を受け入れたり受け止めたりできるようになります。そのため、心のケアの最後のプログラムに演劇をすえています。
 テーマは様々。日常にある問題から、空爆や銃撃戦、戦争と平和…。様々なテーマで各グループが演劇に取り組んでいきます。そして最終発表日のフィナーレにつなげていきます。

最終発表会

 年に1回、最終発表の日を迎えます。
 1年間で取り組んできた作品づくりの大切な発表会。家族や先生方、地域の人々に来てもらい、この大発表会を経験していきます。
 人の前にでて、自分たちでつくった作品を発表する。それこそトラウマからの回復の第3段階「社会との再結合」を意味しています。トラウマを受け、辛い思いをしたことがあるが故に強く慣れた自分が、社会へ向けてその意味を還元していきます。
 こうして心の強さを得ることができた子どもたちは、明日からの生活に戻っていきます。そんな1年間の心理社会的ケア。2014年から3年間継続してきました。2017年からは新たにラファ市だけでなく、隣のハインユニス市でも始めています。
 そして新たにヨルダン川西岸地区ラマラ市の2つの難民キャンプでも「心理社会的ケア」を始めました。
 

心理社会的ケア ファシリテーター養成講座

 心理社会的ケアの取り組みと同時に、この手法が地域に広く普及することを目指し、この分野に興味がある研修生を集めて養成講座を行っています。現場実践と年間数回のセミナーを通して、心のケアのファシリテーターとしての実践力を育てます。
 日本から専門家を派遣してセミナーや現場実践を行う際は、地球のステージスタッフや提携団体のスタッフも参加し、各プログラムの狙いやポイント、手法を伝えていきます。

ヨルダン川西岸事業開始

 2017年3月より、ヨルダン川西岸における心理社会的ケア事業が始まりました。
 現地の団体Nafs Empowermentと代表のナーセルさんと手を携え、西岸では初めてと言われる本格的な心理社会的ケアの実戦が始まりました。
 ガザ地区とは違うトラウマがここにはあります。それは日常的に兵士がやってきて暴力や非人権的な行為を受け続けていること。
 まずは3年間、ジャラゾーン難民キャンプとカランディア難民キャンプの子どもたちを対象に活動を行っています。

2017年6月14日
地球のステージ